岬の通う高校は、岬の出身中学からの進学率が高い。だから知った顔も多いし、クラスには直ぐ溶け込めた。

「岬くん、また一年一緒だね。よろしくね」

そう言って声を掛けてくる生徒の多いこと多いこと。女子が主だが、男子もそこそこ居る。岬は中学で男女分け隔てなく接していたので、男女どちらにもおおむね好感を持たれていた。

ホームルームでは明日からのオリエンテーションについての説明があっただけで今日は解散になった。暫くざわざわとクラスの中がざわめいている中、廊下の扉から岬を呼ぶ声がした。

「安藤、お呼び出しだぞ」

そう言われて振り向くと、其処には彩乃が立っていた。彩乃は岬が自分を見たと分かると、嬉しそうに教室に入ってきた。……中学三年間で培ってきた地位を、彩乃の所為で全て地に落とすことになるのか……。そう思うと歯ぎしりしてしまう。

「岬くん? 帰りましょ」

彩乃が帰りを催促するので行かないわけにはいかない。周囲の生徒に、じゃあね、と挨拶をして、彩乃と連れ立って教室を出る。

送迎の車もない、設備もぼろぼろ、学食なんて当たり前になくて、グラウンドも一つだけ。制服だってあのエスカレーター式の高校ならデザイナーズブランドの制服が着れただろうに、こんな普通のブレザーの制服で何が楽しいのか、彩乃は機嫌が良かった。

昇降口を潜って校舎の外へ。そこで岬は口を開いた。

「あの」

「なあに?」

今後の高校生活を平穏に過ごすために、これだけは頼んでおきたい。

「……学校では彩乃さん、とお呼びしても良いですか?」

岬の言葉に彩乃はぱちりと瞬きをした。

「学校でお嬢さまはおかしいかしら」

「同学年ですし……」

「そっか……。そうよね……」

少し、つまらなさそうに口を尖らせたように見えたのは、岬の被害者意識がそう見せたのだろうか。それにしては、そうね、と頷くのに間があった。

(学校でまで、下僕気分を味合わせるんじゃねえっ!)

そう思っていたら、彩乃が頷いた。

「分かったわ。名前で呼んで頂戴」

取り敢えず許しが出てほっとした。兎に角、彩乃の機嫌を損ねないように、かつ、岬の高校での地位を守る。そのうえで、父親たちの借金を返す手助けをしなければならない。なかなかハードな高校生活になりそうだ、と岬は思った。