食事の時間になった。彩乃は岬に一緒に食事を摂るように言うので今日も末席に座っていると、岬の好物ばかりが運ばれてきた。スコッチエッグに菜の花のカラフルなサラダ、ヴィシソワーズやオムレツ等々。

びっくりしていると、彩乃が嬉しそうに笑った。

「岬くん、今日誕生日でしょう」

そうだ、己の境遇に嘆くばっかりで、誕生日なんてすっかり忘れていた。……ということは、このご馳走は彩乃が提案してくれたのだろうか。

「あ……、ありがとうございます……」

流石の岬も、お礼の言葉が素直に出た。彩乃が満足そうに、ふふ、と微笑む。

「ケーキもあるのよ。あとで切りましょうね」

にこにこと微笑む彩乃を見て憎く思わなかったのは、これが初めてだった。



「マル……。あいつどうしたんだろうな?」

夜。寝床に戻って来たマルたちを代わる代わる抱き上げて話し掛ける。勿論、夕食の時のことだ。食事が終わった後、ケーキが出てきてろうそくを吹き消した。まるきりあたたかいその場の空気に、岬は戸惑った。彩乃は小さい頃に岬の下僕にされたのを仕返ししようとして強引に執事にと雇ったのではなかったのか? それを、誕生日を祝うとか、どうかしてる……。

「あっ、これは懐柔策だったりする? 手懐けておいて、あとでこっぴどく懲らしめてやろうとか、そう言うことか?」

思いつくと、そうとしか思えない。何せ岬が王様だった子供の頃には、下僕たちに随分横柄に接していたと思うから。

「でも、お父様もお爺様も、長谷川だって、他の子供の上に立たなきゃ駄目だって言ってたし、俺は悪いことしてないよな?」

抱き上げたマルが、ニャア、と鳴いた。きっと「そうだよ」と言ってくれている。だから、悪いことはしていない。あの時は周りの子供と立場が違い過ぎたのだ。

「よし。明日からも、俺はいくら頭を下げても、心は屈しないぞ。プライドを持って生きるんだ」

幸い、学校という天国に行ってしまえば屋敷のことは忘れられる。それが、ずっと続くんだと思っていた。