「彩乃はお腹が痛いのですって」

朝起きてこなかった彩乃を訝しんで彩乃の母親に尋ねると、そう返事があった。それならば、一人で学校へ行けば良い。ついでに彩乃の想いの相手を探そう。彩乃のことだ、自分より秀でている男を好きになるに決まっている。そうでなければ、岬よりも成績が良かったことを誇示して嘲笑するようなことはするまい。

(子供の頃に下僕扱いしたことへの仕返しも、あるかもしれないけど……)

でも、女子の好きになる人なんて分かりやすいものだ。テレビのアイドルに憧れるような年齢だ。絶対に見目が良くて成績やスポーツに優秀なところがあって、そして彩乃が思いを秘めていたことから、女子に人気がある人だ。

そう思ってめぼしい男子を洗い出してみる。

まずは全校生徒に名前が知れている生徒会長の三年生、永田。生徒会長をするくらいだから、勿論人望も厚い。でも、イケメンかというとちょっとどうかと思う。少なくとも岬の審美眼ではイケメンに値しない。成績はトップ10には入っているようだが、常にトップというわけではない。これは彩乃の片恋の相手ではないな、と思う。

次にバレー部のエースアタッカー、二年生の細野。バレー部らしく、背の高い爽やかなスポーツマンで女の子にもモテている。しかし、彼は部活に精を出すあまり、テストの成績がふるわない。頭が良くなくては彩乃が振り向くことはないだろう。

同様の理由で、バスケ部の部長の滝本も弾いた。彼には既にマネージャーである彼女が居て、そのマネージャーの存在は全校生徒に知れ渡っている。片恋の相手なら彼はありかと思うが、いかんせん、ルックスが普通過ぎる。

野球部の4番でピッチャーの藤田は、ニキビ面の男だった。とても彩乃が選ぶ男とは思えない。

数え上げたらきりがないけど、探し出すどの相手にも、岬は負けてないと思った。いちいち成績や女子からの人気度なんかを比較して、自分の方が良い男だ! と結論付ける。そして、自己嫌悪に陥るのだ。

「岬くん、最近どうしたの? ずっと目立つ人たちを調べたりして……。そんなことをしなくても、岬君はカッコいいよ?」

「そうだよ~。一時期、宮田さんの活躍振りに浮気してた子たちだって、戻ってきてるし」

「うんうん。やっぱり岬くんに敵う人はいないよ~」

クラスメイトの女子たちの言葉にハッとする。……どうして自分を彩乃が恋う人との比較をしなければならないのだろう。

「い、いや……。僕もまだまだ成長しなきゃいけないなって、思ってたとこなんだ……」

嘘だ。まだまだなんて思ってない。自分の方が優れてると繰り返し思ってる。女の子たちは、そんなことないよ~、と笑っていたが、何故だかその言葉たちは岬の耳を通り過ぎていく。岬は自分の変化が考えられなかった。

(なんで褒められてんのに、素直に受け取れないんだっ! 女の子たちは俺のことを認めてくれてるのにっ! 俺はどうしちゃったんだ、一体!!)

このままでは頭を抱えて唸りだしそうな勢いだ。本当に自分が分からない。

その後も彩乃の片恋の相手の目ぼしい相手を見つけては、その相手と自分を比較してしまう度に、岬は深く落ち込んでいた……。