終わってほしくないみたいに、不安定なリズムで、彼を思うよ。

私のメトロノームは行ったり来たり。ずっと落ち着かないままだった。
林間学校(りんかんがっこう)のときバスのくじ引きで隣になったときみたいに。仕方なく履いた彼の上履きがパカパカするみたいに。いつも貸す水色のペンを落としたときみたいに。臨海学校(りんかいがっこう)で溺れたとき差し伸べてくれた腕に泣きそうになったみたいに。

何度ねじを巻いても、リズムは乱れたまま。そんな二年間の片思いでした。


私は私の手で私の恋を卒業する。そうして退場する。



とどめのないはやる気持ちを抑えて音を()らさずに拾い上げる。右手を鳴らして左手で和音を弾いた。きらめく波のように、嵐に揺れる林のように、激しく動かす右手とくらいつく左手。ペダルを踏む足は迷いのないリズムのステップだった。



さようなら



左手と右手で和音を重ね終えて、ふと顔を鍵盤(けんばん)から上げると窓の向こうには空があった。
曇り空に日差しが差していた。
私、この日の空のこと絶対忘れない。


ソナチネの私は、ぴょこっと振り返りお辞儀(じぎ)をして、こうしてレッドカーペットを後にした。







───「ねぇ、私変わった、よね?最後まで、一度も止まらなかったよ、」

興奮で息切れが止まらなくてちゃんと喋れていたかは分かんない。
しばらく固まっていた彼はふと我に変えると返事に応えた。


「あ……うん。……みおのピアノだ。(あら)っぽくて自由で。聞いたことないぐらい(すご)かった……。いろいろ、伝わったよ。」

身振り手振りで会話して言葉をなんとか紡いだ様子だった。



「私さ、よく分かんないけど、きっと成長ってのは一個一個を受け入れることなんだと思うの。」

「……そうかも、な。」

「内浜は、その紗綾(さあや)さんに野球でちゃんとぶつかったほうがいい」



ただ好きになった人には幸せになってほしかった。





「選ばれなかった人はこうやってぶつかって諦めていくんだから、悔しいの分かるもん。だから、選ばれた人もきちんとぶつかって一回頑張れ!」


私はとにかく一生懸命伝えた。
……これが彼との最後の会話でした。





射抜(いぬ)かれたような顔をした彼はしばらくして口の端をキュッと結んだ。
荷物と抱えると雪の降る廊下を背にくるりと振り返った。手を高く(かか)げて、そして私に向かって大きく振った。



「みお、ありがとう。ごめんな。
おれ、今から紗綾(さあや)に告白してくる。」





私の心には、その迷いが晴れたような明るい表情が離れなくなってしまった。そう、内浜の歯を見せて笑うその顔がすべてだった。

遠くに消えていくのを彼の足音が
私のなかの何かを突き動かす力となって、全身が瞬時に解放されたのだ。








「綺麗な手してるんだから、いい球投げな。内浜、応援してる。」


そっと呟いた。
午後4時。下校のチャイムが鳴った。



行ったり来たりの私のメトロノームはこうして止まった。

また春になったら、六年生になったら。
夢を奏でます。

私だけの指使いで───。