「ねぇ。同情しないで。

……私そんなに弱くない!!そんな上辺(うわべ)の態度いらない。
今からちゃんとぶつかるから、ちゃんと振って!」








一瞬、下を向いて息をすうっと吸った。

そして、電子ピアノの鍵盤(けんばん)が目に映った。
黒鍵(こっけん)白鍵(はっけん)が何本も鍵盤(けんばん)の上に並んでいて、
その音階を駆け上がるように、視界を、頭を上げると

彼の瞳は私を見つめていた。

アッと言うまでもなく、
私はその瞳に、何度も焦がれた好きな人の顔に、もう()げてしまっていた。






「内浜。好きだったよ。ずっと、ずっと……。」




それは、生まれて初めて呟いた、愛の台詞だった。
この言葉を言いたくて言いたくて、
どれだけの日々を越えてきたのだろう。

思ったよりすんなりと発せたその台詞は
どんな場面で使うのが正しかったのかな。
やっぱり林間学校(りんかんがっこう)臨海学校(りんかいがっこう)かな。それともげた箱や廊下?
照れながら勇気を出して告白すべきだったのかな。

こんな励ましのために言いたかったわけじゃない。




内浜はこんなにも悩んでいた。
幼い独占欲で、この優しい人を縛っちゃだめだ。(じょう)を解かなきゃ。
だって優柔不断すぎる。

今、私に出来ることはその背中を押すことだけだ。





「ねぇ、内浜。好きな人のこと教えて。」