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「みお。テストお疲れ様。今日の晩ご飯はエビフライよ。」
ママは晩ご飯を豪華にこしらえ、私をねぎらってくれた。
入塾テストの成績が塾長との面談で渡された。地域の同学年の平均よりやや下の合計点数を取った私は、「まだ間に合う」と言われた。こうして案外スムーズに入塾が決定した。
元々成績が悪いわけではなかったけれど、やっぱり期待を裏切りたくなかったから、毎晩少しだけ教科書を眺めることを徹底していた。
目の前のことに取り組むこと、私はそれを大切にすることにした。
「みおもあと一年で中学生になるんだから。そろそろこうやって、次のステージにいかなきゃね。」
ママはエプロンを外して、仕事から帰ってきたパパを迎えに駐車場へ駆けていった。
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"みおはピアノが上手いわね。ピアニストになれるかも"
"すごいすごい。"
五歳だろうか六歳だろうか。そんな昔の夢を見た。
恋をすることも、振られることも何も知らなかった幼い頃の自分と、
少なくとも私の前でため息なんかつかない、笑顔のママとパパ。
幸せな家族三人をただ眺めている、そんなもう戻らない姿がそこにあった。
ねぇママ、パパ。
好きな人が出来たよ。
でも、その好きな人にも好きな人が出来たみたい。
私、その人に勝てないよ。
生まれ育ったこの町で、枯れるほど泣いちゃったんだよ。
───もし口に出来たら何か変わる?
夢から覚めたとき、思った。
眺めているだけでは何も変わらない、と。
終わらせなければならない時期がすぐそこまで来ている、そんな予感がして布団を剥いだ。カーテンの隙間から覗く透き通った空を見上げて、冬の朝の寒さにぶるっと震えた。
窓の外には雪がちらついていた。