「はあ?」

「せっかくなので言わせてもらいますけど、なんなんですか、その髪。イメチェンですか? まあ黒も嫌いじゃないですよ? でも私は冴霧様の透き通った白銀の髪が、朝に飲むお味噌汁と同じくらい好きなので、ぜひとも戻して頂ければと」

 もともと細い三つ編みに結われた部分には、墨に浸したように黒く染められた部分がところどころ混じりこんでいた。

 それがどうだろう。

 今の冴霧は、もはやそのレベルではない。

 三つ編みに関してはほぼ真っ黒。前髪にも濡れ羽色が見え隠れしているし、全体像を見たら、もはやそちらの色の方が多いくらいになっている。

「……おまえにとって朝の味噌汁はどんくらい大事なんだ」

「そうですね。毎夜、布団に入りながら『明日のお味噌汁の具は何にしよう』と真剣に思いを馳せるくらいでしょうか」

「嘘だろ、この期に及んで味噌汁のこと考えて寝てんのか? そこは未来の旦那のことを考えて寝ろよ。なんでそう色気がないんだ」

 話をそらすのはどっちだ、と真宵は思う。

 この髪がただのイメチェンではないことくらい、本当はわかっていた。

 髪が黒く染まれば染まるほど、冴霧から感じる神力がどんどん濁っていくような感覚を覚える。

 それは不純物すらなさそうな清らかな川の水が、一夜の嵐後、氾濫して泥水に溢れるような。そんな感覚。

「──……おい、冴霧。いちゃついてるとこ悪いが、嫁が待っているから俺はそろそろ帰らせてもらうぞ。こちとら諸々の仕事も全て放り出してきたんだ」

 これ以上話が発展しないと判断したのか、ため息交じりに声をかけてきた翡翠。

 ちらりと振り返って、冴霧は真宵を片腕に抱えながら立ち上がった。

「……おう。悪かったな。わざわざ呼び出して」

「なんだ、見送りでもしてくれるのか?」

「そんくらいはする」

 へえ、と翡翠が微苦笑する。