「それを俺に聞くのかよ。鬼なのか?」
「鬼はセッちゃんでしょ」
冴霧はやりきれないように前髪を掻き上げた。
興を削がれたのか翡翠から離れて、ふたたび真宵の傍に腰を下ろす。
かと思えば布団を引っぺがされ、背中と膝裏に手を差し込まれた。
そのまま軽々と抱き上げられた真宵は、気づけば冴霧の太腿の上。
なんで?と困惑しながら冴霧を見上げる。
「起き上がれないんだろ」
「それは……まあ」
「さすがに今すぐ死ぬってわけじゃねぇけどな。冗談抜きで、このままならあと一ヶ月持たねえだろう。俺と結婚しなければ、の話だが」
一ヶ月、と頭の中で反芻した真宵は瞠目した。
「思ったより長かった」
「おまえの時間感覚どうなってるんだよ?」
だって、てっきり今日が峠なのかと思っていたのだ。
なんだまだ一ヶ月も猶予があるのか、とむしろ楽観的に捉えてしまう。
「なぁ、真宵。おまえなんでそう死に急ぐんだ」
「死に急いでなんかないですよ」
「じゃあなんだ? 浄化の儀式なんて身削るようなことしておきながら、まさかその先に待ち受ける『死』を意識してないとでも?」
白火か、と真宵は天を仰ぎたくなりながら片手で顔を覆った。
やけに突っ込んでくるなと思ったら、すでに言質を取った後だったらしい。
「あれほど内緒にって言ったのに……」
「俺が吐かせたんだよ」
「そうだぞ、真宵嬢。そいつに言わなければ消すと脅されていたんだ」
あのちびっ子に、まさかそんな直球な脅しを……?
「子ども相手に最低すぎません?」
言葉通りの純粋無垢で人を疑うことを知らない白火が、そんなものを冗談と取れるわけがない。
真宵の全力の非難の目に、冴霧は気まずそうに目を泳がせた。
「んなこたぁいいんだよ。問題なのはおまえが『自分を傷つける』行為だと知った上で、それを行っていたことだ。──なあ、真宵。許嫁という存在がいながら、ずいぶん舐めた真似をしてくれるじゃねぇか」