翡翠はあからさまに面倒そうに息を吐きながら、少し乱れた衣服を整える。
「俺を消せばおまえも消えるぞ、冴霧」
「っ、だからなんだってんだよ」
「そういうところだと言っているんだ。感情に流されて行動する前に、真宵嬢の気持ちも少しは考えろ。おまえが消えて一番悲しむのは誰だと思ってる」
ぐっと言葉を詰まらせた冴霧が、躊躇いがちに真宵を見る。
その視線になんとも虫の居所が悪くなって、真宵は逃げるように顔を伏せた。
(そ、そりゃあ私でしょうけども! なんか気まずいからやめて翡翠様!)
赤羅に助けを求めると、無言で首を振られた。
じゃあ白火と目線を移せば、その顔が涙と鼻水で悲惨なことになっていてぎょっとする。
決して今に始まったことではないが、先ほどからずっとこの調子であることを真宵が知る由もない。
「うわあ白火ちょっとそれどうしたの」
「……うぐぅ……まよいさまのばかぁ……!」
「ああはいはい、ごめんね。心配かけたね」
とりあえず起き上がろう、と体に力を入れようとして戦慄が走った。
まったくもって力が入らない。
確かに先ほどから体が重いとは思っていたけれど、これではまるで布団に縫い止められてしまったのようだ。
自分が寝返りすら打てないことに動転しながら、しかし顔には出さないよう努力する。
「まよい、さま?」
「あ、ごめんぼーっとしちゃった。白火、ちょっと顔洗っておいで」
「でも……」
いいからいいから、と半ば無理やり白火を立たせて顔を洗いに行かせる。
白火が部屋から出たのを見計らって、真宵は真顔で冴霧へ視線を戻した。
気まずいとかそんなの気にしていられない。
これは間違いなく、一大事だ。
「冴霧様。やっぱりというか、もしかしてなんですけど、私、もう死にます?」