「ぐっ……テメェなにしやがる!」
「やかましい口があったもんでな」
「ああん!?」
「──あぁ、ごほん。まぁいずれ機会があれば遊びに来るといい。うちにはおまえと同じ人の子の娘がいるんだ。歳は……ああ、うちのが上か。なにかと面倒見が良いから、きっと君のことも妹のように可愛がると思うぞ」
人の子、という言葉に目が丸くなる。
「かくりよに、人がいるんですか?」
「ああ、まあ珍しくはあるな。元々はうつしよに住んでいたし、正式に越してきてからはまだ一年も経っていない。今は絶賛花嫁修業中だ」
「花嫁、修行」
真宵は呆気に取られて、ぽかんと口を開けた。
話の急展開についていけない。
かくりよに人の子がいるという時点で初耳なのに、まさかの嫁宣言。
(え、嘘。待って。私以外にも神様の花嫁になった人の子がいるの?)
それは、なんだ。
つまるところ【魂の契り】を交わしたと──そういうことなのだろうか。
「ふむ。なにか気になるという顔だな」
「っ、はい。あの、契りは……」
ああ、と翡翠はなんてことはないように頷く。
「その辺は少々複雑な事情が絡み合っていてな。いわゆる【魂の契り】はまだ交わしていないんだ。婚姻という意味での言葉の契りで縁は結んでいるが……」
「あ? なんだそれ、聞いてねえ」
冴霧が面食らったように食いついた。どうやら知らなかったらしい。
「そりゃあ言ってないから当然だろう。まあ今抱えている問題が全て片付けば、いずれは交わすつもりでいるさ。おまえたちほどではないが、俺たちにも【魂の契り】ではなければならん理由があるからな」
事情はよくわからないが──なるほど。
やはり人と神の婚姻は、何かとしがらみが発生するようだ。
当然と思うべきか、自分たちが異端だと受け入れるべきか。