──そう、この美丈夫すぎる男、冴霧も人間ではない。

 八百万の神々が住まう天上の国。

 この高天原において、それなりに名の知れた天つ神のひとり。

 天地を縦横無尽に駆け巡り、事象の『流れ』を司ると言われている龍神。

 それが、時に龍王と称されることもある冴霧の正体だ。今は人の姿に変化しているものの、本来の姿は月の光を模したような白銀の鱗を纏う白龍だったりする。

 外見だけならば、真宵よりも少し上の二十代半ば辺りだろうか。細身ながら和装を雅に着こなす均整の取れた体躯で、背丈は真宵より頭ひとつ分以上高い。

 切れ長で、どこか蠱惑的な雰囲気を纏う瞳の色は深碧。光をはじく白銀の髪は毛先にやや癖があり、絹の糸のような柔らかさで美麗な顔をより引き立たせる。

 神秘の中に妖艶さも兼ね備えた怜悧な美しさは、まさに人間離れした完成品だ。

 しかし、そんな冴霧のなかでひとつだけ、真宵が好ましく思わない部分がある。

 それは首の後ろから細く腰の方まで伸びている三つ編みの部分。三つ編みが嫌だとか、そういうわけではない。

 ただ、美しい白銀が編み込まれたその各所に、ところどころ夜闇の深淵を思わせる漆黒が混ざりこんでいるのだ。

 これがどうにも受け入れられない。もともとは確かに全て白銀だった。そこにいつからか闇が忍び込むようになり、今では全体の三分の一程度が黒くなっている。

 相対する色が共存する様は、まるで冴霧の心を如実に表しているようで。

(なんだか、また増えてる気がするし……)

 まあ真宵がいくら気にしたところで、当の本人は意にも介していないのだけれど。

「ところで、冴霧様。──いい加減にしてくれません?」

 そんな神である彼が、こうも足繁く真宵のもとへ通うのには一応理由がある。