「あァん?」

 しかしその一言でこの方は通常の感覚がわかる人だ、と真宵の心がついつい浮き足立つ。

 その通りだ。

 挨拶代わりに求婚してくるような男はおかしい。

 久しく共感してもらえなかった思いを拾ってもらえたことが嬉しくて、俄然彼に興味がわく。

 初対面だが、雰囲気や身なりからしても位の高い神なのだろう。

 均整の取れた長身の体躯、春の日差しのような柔らかい黄金の髪、呆れに歪ませた顔でさえ様になる端麗な容姿。

 冴霧が神秘的な美しさなら、彼は雅な美しさだ。

 どうして高貴な神々は、こうも美麗なモノが多いのか。

(それにしても、冴霧様に『アホ』って……本当に何者?)

 真宵が小首を傾げている間も、神々の軽快なやり取りは続く。

「だからフラれるんだ。本気で堕とすつもりならもっと真剣に向き合え。まずは誠心誠意、全力で口説き落とすところから始めたらどうだ?」

「はん、どこぞの歯浮き野郎みたいな真似出来るかよ。俺のキャラじゃねえ」

「キャラも何もあるか。ったく、おまえはとにかく誠実さが足りなくて困る。最悪脅せば良いとか思っている節があるだろう」

「なに言ってんだ。結果的にそうなりゃ同じ事だろ」

「人の子は結果より過程を気にする生き物だ。たとえ結果が同じでも、間違いなくその後に響くぞ。せっかく結婚出来ても熟年離婚に発展しかねない」

「んだそれ、面倒だな」

「ああ、面倒なんだ。だがそれが良い」

 真面目な顔でなに言ってるんだろ、この神様たち。

「うん、同類だ……」

 言い得て妙すぎて、なんとも複雑な気持ちになる。

 神様、物の怪、人の子。

 どの種族も『核』──いわゆる本質の部分で性質が異なるという。

 種族間において、根本的な価値観のすれ違いが起きるのはこのためだ。

 高天原で育った真宵は、この十九年で自分の異質さには気づいている。