何の話?と真宵は思った。
人が深く眠っている隣で、なんやかんやと騒ぎ立てる彼らに内心呆れながら、しかしまだ生きているのだと実感して。
それがなんだか無性に、痛む頭に響いた。
「……あの……」
重い瞼を持ち上げて、そう小さく声を上げれば皆が一斉に真宵の方を振り返る。
ズキン、ズキン、と波打つ頭を押さえる。
腕を上げるのも精一杯なくらい、体が鉛のように重い。
ひどく記憶が混濁していた。
なぜ自分は寝ているのか、なぜこんなにも囲まれているのか理解が追い付かない。
ただ、そう、とにかく。
「……うるさいんですけど……」
なんとか絞り出した声に一瞬ピシリと空気もろとも固まった彼ら。
だが最初に我に返り、率先して動いたのはやはり冴霧だった。
すぐさま褥の傍に膝をつき、なんの断りもなく首筋に触れてくる。
いつも以上に冷たく感じる指先に、身体がぴくりと揺れた。
戸惑いながら見返せば、冴霧は目を細め、僅かに眉根を寄せた。
「目ぇ覚めたか。どこか不調は?」
「……え、と……全部、怠いです。頭も痛い……」
「だろうな」
そう真剣な面持ちを向けられたら、反論の言葉も出てこない。
ただ黙って身を任せていると、そっと手を離した冴霧は真っ直ぐに真宵を見据えて──告げた。
「俺の嫁に来い、真宵」
「お断りします」
もはや条件反射である。
思考よりも先に、まるで口がそう覚えていたかの如く飛び出していた拒絶に真宵自身も驚いた。
我ながらこの文言が染みつきすぎたらしい。
冴霧はわけがわからないというように顔を歪めて、真宵を凝視してくる。
それはもう食い入るように、正気か?といかにも異様なものを見るような目で。
「なんでだよ」
「なんでもなにも……人が弱ってるところにつけこもうとしないでください」
「そうだ、弱ってんだ。死にてえのか」
この男、口を開けば馬鹿の一つ覚えのように求婚か脅ししか出てこないな。
ついつい冷めた目を向けてしまいながら、真宵は冴霧の言葉を舌の上で転がす。
ふむ、しかしこの『死にてえのか』という物言は、あながち脅しではないのかもしれない。
実際、死にそうなほど怠い。
これ以上言い返す気力も湧かないし。
とはいえ、こう切羽詰まった中でも婚姻を結ぶ選択を取らない自分も大概だ。
いっそ婚姻を結んでしまった後に、ゆっくり懐柔させるのもアリだろうか?
いや、それはさすがに血迷い過ぎか。
だめだ。
頭が上手く回らないせいで、どうにも思考が纏まらない。これは真剣にまずい。気を抜いたら変なことを口走ってしまいそうだ。
──ところで。
(……誰、だろう……)
気づいてはいたが、冴霧の後ろで始終を見守っている男が先ほどから額を押さえて呻いている。
おずおずと視線を向けると、不思議な形をした銀色の瞳がこちらを向いた。
彼のあまりの美丈夫さに、ついドキリと心臓が音を立てる。
「可哀想にな。──ったく寝起きに求婚するやつがあるか、阿呆め」