「……うるさいんですけど……」

 いつの間にか目覚めていた渦中の娘。

 真宵はそれはそれは迷惑そうに、かろうじて聞き取れるほどの小声で言い放った。

 褥に深く沈みながらも、さきほどまで長く影を落としていた睫毛は確かに上を向いている。

 薄く開けられた目から覗く黒曜石の瞳が冴霧を捉え、同時に狼狽えるようにそれが揺れるのを見た。

 血のように駆けめぐる安堵を押し込めて、冴霧は自分を叱咤する。


 守る。

 そう決めたのだ。

 十九年前のあの日、この腕に真宵を抱いた時に。


(……ああ。覚悟なら、とうに出来てる)


 冴霧は縹色の羽織を翻し、真宵の元へ歩み寄りながら、もう一度決意する。

 この先なにが待ち受けようが、おまえだけは救ってみせる。


 だから、死ぬな。

 生きろ。


 ──真宵。