「しかし、不思議とそれがいじらしくて……」

「惚気はいい。結局なにが言いたいんだよ」

「だから、人の子の嫁を貰う気なら相応の覚悟をしろと。己の全てを打ち明ける勢いでぶつからなければ、人は心を開いてくれない。おまえの中にある価値観を当然だと思っていたら、簡単に取り逃がすぞ」

 翡翠は真宵の顔にかかる髪を指先で払いながら、冴霧に鋭い眼差しを向けた。

「手遅れになる前に覚悟を決めろ、冴霧。この娘がおまえを想う限り、救えるのはおまえしかいない。──そしておまえのことを救えるのも、もはや彼女だけだろう?」

「っ……」

「手遅れ寸前なのはおまえも一緒だ。互いに妙な意地を張ってすれ違っている間にどちらも犠牲になるなど、あまりに馬鹿馬鹿しい。俺はそう思うがな」

 簡単に言ってくれる、と冴霧は滅入りながら頭をガシガシとかいた。


 ……ならば言えと?

 この穢れきった自分を見せろと?


 それが出来ていたら、こんなに苦労はしていない。

 真宵と出会ってから十九年。

 神にとってはよもや吐息程度の短い年月なのに、あまりにも長く感じたのは、他でもない真宵がいたから。

 限られた時を大事にしようと、そう思わせてくれる存在があったからだ。

 懸想、などとは生ぬるい。

 冴霧は心の底から、真宵を愛している。

 この想いに嘘はない。神とて時には恋もする。

 だが、この拗らせ具合はなんだ。

 なにもかも順調だったはずなのに、どうしてこんなことになっている。

 考えても考えても、冴霧にはやっぱり分からない。

「流獄泉に神力を削り取られた分、もう真宵嬢には時間がない。今回の一件に関しては俺も調査に協力してやるから、おまえはひとまず結婚の了承をもらうことに専念しろ。双方の同意がなければ魂の契りは不可能だぞ」