ダンッと地面を踏み荒らしながら立ち上がる。
そのままやりきれない思いを拳に握りしめて、硬い漆の壁に叩きつけた。
当然手の甲が傷つくが、そうしないと周囲のものを手あたり次第、無に還してしまいそうだった。
以前より遥かに黒く染まった三つ編みが舞い上がって視界の端に揺れるが、もはや気にもしない。
どうせ最後には全て染まるのだ。
「……ま、真宵さまは」
ぐずぐず鼻をすすりながら白火が起き上がり、懸命に泣くのを堪えた顔で冴霧の方を振り返る。
まだ子どもの、幼子同然の瞳が色濃い不安と不満に染まっていた。
「真宵さまは言ってました。冴霧様がなにも言ってくれないのがつらいんだって」
「あぁ? 俺は何度も求婚してるだろ」
「そうではなくっ!」
白火はきゅっと顔を歪めて、冴霧を睨む。
「あなたさまが、ご自分のことをなにも真宵さまに明かさないから……!」
怒りと、悲しみと、苦しみが浮かぶ目。子どもに睨まれたところで痛くも痒くもないはずなのに、何故かその瞳は冴霧の胸に鋭く突き刺さった。
「真宵さまはいつだって、寂しがっておられるんですっ!」
「さみ、しい?」
「なんで、なんでわからないんですかぁ……っ」
全てを知っているからこそ、真宵にはなにも言わないでやってきた。
自分のことも。真宵自身のことも。
それが彼女を傷つけないために必要な事だと判断していたし、冴霧自身も汚れきった己のそういう部分を見せるのは死んでも嫌だった。
そんなものを見せたところで何になる。
嫌われこそすれ、得られるものなど何もない。
そう、思っていた。
「……あんなぁ?」
そこで遠慮がちに口を開いたのは赤羅だ。
赤羅は彷徨うように視線を巡らせて、情けなく眉尻を下げながら胡坐をかいた爪先を手で掴む。
「お嬢な。ちゃあんと主はんのこと、好きなんやで」