「は、はい。一週間とか二週間とかに一度、天岩戸の前で」

 天岩戸(あまのいわと)──?

 なぜそこで天岩戸が、と意味を図りかねて、冴霧は翡翠と顔を見合わせる。

「真宵さまは天利様の穢れを祓う手伝いがしたいと、天岩戸越しに浄化の儀式をしているのです。そうしたら少しだけ目覚めるのが早くなるかもしれないって……」

「はああああ?」

 面食らうを通り越して度肝を抜かれながら、冴霧は目をひん剥いた。

(……ちょっと待て、【浄化の儀式】だと? あの霊力をバカ消費するやつか?)

「ぼっ、ぼくも止めてるんです! 浄化の儀式は霊力の消費量はさることながら、お身体の負担も大きいから……っ! でも、でも、真宵さまはっ」

 それが無意味だと分かっていてもなおやめないのだ、と。

 白火は冴霧の腕から抜け出して、真宵の布団に顔を擦り付けながら嘆いた。

 今度は布団が涙と鼻水の犠牲になったが、ひとまず置いておこう。

「……なるほど。そんなことをしていれば、そりゃあ神力の減りも早くなるというものだ。冴霧に負けず劣らずの自傷行為じゃないか。仲が良いことだな」

「チッ、いちいち俺を引き合いに出してくんじゃねぇよ」

 意味がわからない。

 なぜそんなことをする必要がある。

 それで仮に天利の目覚めが多少早くなったとしても、人である真宵が彼女とふたたび会える可能性はないに等しいのに。

 人はせいぜい百年足らずしか生きないではないか。

(それどころか……明日の命も危うい奴が何やってんだ)

 ああ、わからない。

 なぜ真宵はこうも生きようとしないのか、冴霧はずっとわからない。

 何度求婚しても断られる。

 死にたいのかと脅しても、平気な顔で気にするなと抜かしてくる。

 挙句の果てにこうも死に急ぐようなことばかり。


「──クソッ!」