「幸か不幸か真宵は霊力が強い。霊力と神力は別モンだが、真宵が『生』を維持するのに霊力は必要不可欠なもんだ。そのおかげで神力の減りを抑えてるわけだからな。だから計算狂いが起きたのは、おそらくこの霊力が関連して──おい、白火?」

 腕の中の白火の顔が真っ青なことに気づいて、冴霧は怪訝に覗き込む。

「テメェ……その顔、もしや何か心当たりがあるな?」

「ひえっ……い、いえ……なんでもないですっ」

「言え。消すぞ」

 白火はぶわわわっと尻尾の毛を逆立てた。

 さすがに冗談だが、これまでの会話から冴霧が本気で『消す』と思ったのだろう。

 途端、びゃあっと泣き出した。

「はぁ……小さい子どもを泣かせるな、冴霧。良い歳して大人げない」

「あいにく、どっかの誰かさんと違って子持ちじゃねえもんでな」

 翡翠には嫁の他に娘もいる。

 里子で血は繋がっていないが、これはもう溺愛しているのだ。

 口を開けば嫁自慢か娘自慢しかしない。

 最近、晩酌がご無沙汰になった原因のひとつでもある。

「主君の命がかかってんだ。言えよ、坊主」

「で、でも……真宵さまに言うなって……」

「その真宵さまが死んでもいいのか、おまえは」

 ぶんぶんぶんっと白火が引きちぎれんばかりに首を振る。

 相変わらず顔はびちゃびちゃで、あやうく服に鼻水がつきかけた。

 先日、唐突に『涙と鼻水で犠牲になった羽織を新調したいのですが』とわざわざ伝心してきた蒼爾を思い出した。

 なるほど、こういうことか。わかりたくなかった。

「ったく泣き虫かよ。ほら、真宵には俺から事情を説明してやっから言え」

 なるべく声音柔らかく頭を撫でてやると、白火は観念したように耳を垂らして項垂れた。

 もにょもにょと口を動かしてから、意を決したように顔を上げる。

「真宵さまは……その、儀式をしているのです」

「儀式ぃ?」