「彼女は運命上、すでに『死者』だ。従って魂もな。だが歪にも身体だけは死んでいない。分離した魂を神力で無理やり繋ぎとめている状態だろう」

「……縁ってのはそこまで分かるのか?」

「縁というよりは魂だな。俺はある程度、魂の形を視ることが出来る」

 さらっととんでもないことを言うんじゃねえよ、と心の中で毒づく。

 モノの魂を視るなど、おそらく天照大神ほどの大神でなければ不可能だ。

 高天原に上がれば確実に天神会の上層部クラスなのに、この男は昔からそれを拒み続けている。

 だから、いけ好かないと神々に毛嫌いされるのだというのに。

「十九にもなる人の子なら、縁が空っぽの魂など有り得ない。体を生かすために力づくで嵌め込んでいるから、こういう無残なことになるんだ」

 縁など見えないものからすれば、それの何が悪いのか分からないが──。

 無残とは、そんなに哀れな状態になっているのだろうか。

「まあ俺が何を言ったところで当時の決定は覆らなかっただろうが、正直嫌悪を覚えるな。歪めた魂はもう輪廻転生も叶わないぞ」

 縁を司る神に言われせれば、言語道断なのだろう。

 ──ああ、高天原のこういうところが嫌なのか。

 利己的な神々を毛嫌いするのは翡翠も同じことだな、と早々に思い直す。

(ま、優しさだけで出来たような男には、天神会の仕事は出来ねえか)

 とりわけ、冴霧が背負っているようなものは。


「……これでよく、死ななかったな」

 しみじみとそう呟く翡翠。

 本当にな、と心の中で同意する。

 現在真宵の魂を体に留めている神力は、この十九年で真宵自身が体内に溜め込んできた神力と、高天原に満ちる自然の神力のみで補われている。

 先ほど応急処置で冴霧の神力を流し込んだが、契りでも加護でもないものは雀の涙ほどの効果しかもたらさない。

 天利が真宵に施していた加護は、それほど真宵の命を繋ぐために欠かせないものだったのだ。

(あれほど急速に穢れを負いながら、十九年耐えたのは最高神ゆえか。俺なら五年──いや、仕事のことも考えれば二年が限界だっただろうな)