「やはりな。──彼女には『縁』がない」

「はあ? 縁がねえ……なんて、んなこと有り得んのか?」

「いいや。俺も長く神をやっているが、こんなことは初めてだな」

 縁に通暁する翡翠が、こんなことを冗談で言うはずもない。

 冴霧は苛立ちを抑えるために白火の尻尾を軽く掴んだ。

 白火は「びゃっ!」と飛び上がったが、毛玉というのは良くも悪くもモフりたくなるというもので。

 なにするんだと非難の目を向けてきたが、別にそこまで強く掴んでいない。

 赤羅がこんな時になにを戯れているんだと冷たい視線を寄こしたので、『手触り良いぞ』と目配せすれば『知っとるわ』と投げやりな目線が返ってきた。

「……そんで? つまりなんだ。真宵は特殊なのか?」

「特殊、か。初めからこうだったわけではないだろうがな」

「もったいぶるなよ」

 翡翠は冴霧から目を逸らしながら、不快気に鼻を鳴らした。

 よろず屋の仕事ゆえか、あまり感情を乱さない翡翠にしては珍しい反応だ。

「本来は〝死んでいた〟はずの命──その運命を神々の力で無理やり捻じ曲げた異質な存在。それがこの娘、真宵嬢だろう?」

「……どこで聞いた」

「よろず屋の情報網を舐めるな、と言いたいところだが、長年神をやっていればそれくらい想像がつく。彼女が現れた時はかくりよでも大騒ぎだったからな」

 白火はまだ当時生まれていなかったから知らないのだろう。いまいち意味が分からないのか、きょろきょろと視線を彷徨わせて戸惑った顔をしている。

 しかし、残念ながらその通りだ。

(まあ神々の中でもそこまでの詳細を知っているのは、ごく少数なはずなんだがな)

 肯定も否定も出来ず、冴霧はどうしたものかと天を仰ぐ。