はああっ?と素っ頓狂な声を返したのは冴霧ではない。

 それまで大人しく様子を見守っていた赤羅だ。

 思わずといったように翡翠の胸ぐらを掴みあげた赤羅は、次の瞬間「なに言うてんねん!」と鼻息荒く怒号を上げた。

「いくら翡翠様でも今のはあかんで! 生きとるに決まっとるやろうがっ!」

「やめろ、赤羅」

「でも主はんっ! お嬢のことまるで死んでるみたいな言い方したんやで!?」

「いいから、やめろ」

 数トーン低い声で睥睨すれば、赤羅はびくりと体を震わせる。

 おずおずと翡翠から手を離して、しかしまだ悔しそうにギリッと奥歯を噛みしめた。

 もちろん、赤羅の気持ちも分かる。

 今の発言が翡翠から出たものでなければ、容赦なく消し飛ばしていた。

 だがここでいう『生者』は、おそらく赤羅の考えているような意味ではない。

「……悪ぃな。ま、こいつらに悟れって方が無理だ」

 傍らで毛を逆立てていた白火も今にも飛びかかっていきそうだったため、ひとまず腕の中に抱えあげた。

 これ以上話をややこしくされても困る。

「翡翠よ、その質問じゃ俺はイエスともノーとも言えねえ。おまえの言う『生』ってのはどの部分だ。俺の想像が正しけりゃ、そもそも答えはねえがな」

「……なるほどな。良い、今のでわかった」

 翡翠は特に怒ることもなく乱れた着物を正しながら、難しい顔で続ける。

「さしずめ運命を捻じ曲げた反動ってところか。すまないが冴霧、何も視えん」

「あァん? どういうことだよ」

「そのままだ。視えない、というよりは視るものがないという方が正しいか」

 翡翠はふたたび「誤解するなよ」と律儀に言い添えてから、真宵の胸の上辺りへ手をかざして目を閉じた。

 ふわっと微かに翡翠の神力が辺りに漂う。