「真宵の力を狙う神は大勢いる。こいつは神々の宝そのものだからな」

「……【清めの巫女】か」

「あぁ。そりゃこれまでも無理やり真宵を手に入れようとしてきた奴はいたさ。なにも今に始まったことじゃねえ。だが今回はわけが違うんだよ」

 ちなみに、と翡翠がなかば諦めたように目を眇めて重々しく口を開く。

「そいつらは消したのか」

「ったりめぇだろ」

 はぁぁぁぁと肺の息を全て吐き出すかの如く、翡翠が大きく嘆息した。

 何度このやり取りを繰り返したら気が済むのだろうか。

 消したもんは消した。

 なぜならそれが冴霧の『仕事』だからだ。

 それ以外に理由などない。

「なぜそれほどの穢れを負いながら自我を保てるのか、という疑問は後にするが。つまるところ、彼女を取り巻く縁の中から怪しいモノを探せと、そう言いたいんだな?」

「出来るか?」

「出来なくはない。だが、そう簡単なことでもないな」

 翡翠は真宵の額にそっと触れようとして──ピタリと動きをとめた。

 目線だけこちらに流しながら「一応確認しておくが」と慎重に前置きする。

「彼女に触れるのは『視る』ためだ。怒るなよ。俺には既に愛しの嫁がいるからな」

「あァん? わかってるっつの」

 やれやれ、と肩を竦めながら今度こそ真宵の額に触れる翡翠。

 了承しておきながら、やっぱり全て片付いたら一発殴ろうかと考えていると、翡翠はふっと表情を消した。

 なんとも嫌な予感がして、冴霧は眉間に皺を寄せる。

「………………」

「おい、なんかわかったのか」

 しかし翡翠は黙りこくったまま、おもむろに手を離して考え込む。

 冴霧と白火は顔を見合わせた。

 さきほど拭いてやったばかりなのに、白火の顔は既に涙に濡れている。どうやら涙腺が馬鹿になってしまったらしい。

「……ひとつ聞くが」

 やがて、絞り出すように翡翠が口を開く。




「彼女は『生者』か?」