「ったく……。にしても手慣れてるな。いつの間に子ども作ったんだ、冴霧」

「は、俺の子なわけ……いや、待てよ。真宵と結婚したらそうなるのか?」

「なんだ、連れ子婚か。やるじゃないか」

 翡翠は軽妙に答えながら、真宵を挟んだ向かい側に座り込む。

「違いますよっ! ぼくは神使だって言ってるじゃないですかあっ!」

 神使と言えるほどなにか仕事をしているのかこいつは、と内心思ったが言わないでおく。

 こういう茶番は好きな方だが、今はそれどころではない。

「それで、俺におまえの嫁のなにを診ろと? いくらよろず屋とはいえ、さすがに医者の真似事は出来んぞ」

「んなことは分かってる。調べてほしいのは『縁』だ。専門分野だろ」

 翡翠は器用に片眉を上げて「ほう」と腕を組んだ。

 詳しく説明しろということらしい。

「こいつを泉を引きずり込もうとした奴は、怒りに任せて消しちまったからな。それの身元は蒼爾に調べさせてるが……まあそこはいい。おそらく今回の件には《《他にも関わってる奴が》》いる。そいつの手がかりが欲しい」

「その根拠は?」

「高天原にも上がれねぇような罪神が、そう簡単に真宵に干渉出来ると思うか?」

 真宵には鬼たちを付けていた。

 冴霧の従者たちは決して無能ではない。何かしらのアクションがあれば、確実にそれを食い止めていたはずだ。

 にも関わらず、事件が起きた。

 本来ならば、深夜にひとり真宵が動き出せば五感の鋭い鬼たちがすぐに気づく。

 だが鬼たちの話によれば、真宵がいなくなったと気づいたのは玄関の扉が閉まる音がしたからだという。

 つまりそれは、真宵の動きを察知出来ていなかったということだ。鬼の察知能力を鈍らせる何かがあった、と考えるのが妥当だろう。