「──……まさかおまえから依頼を受ける日が来るとはな」
爽やかな金髪を靡かせながら、端麗な男が腕を組んで現れる。
若竹柄の羽織が風に揺れ、いつにも増して妖艶な銀色の瞳が冴霧をとらえた。
場所は天照御殿の前。
待ち合わせにはもってこいな高天原一の有名所だ。
「俺もまさかこんなことを頼む日が来るたぁ思ってなかったぜ、翡翠」
冴霧はふんと鼻を鳴らしながら彼を迎えた。
とはいっても、つい数刻前まで顔を合わせていた相手である。
腐れ縁で、立場は違えどそれなりに関わりは深い。人の子ならば『親友』とでも称するのだろうか。
なんにしろ、冴霧にとっては数少ない友と呼べる相手だ。
「それで? 急を要するというから何もかも放り出してきたんだが」
「急も急だ。むしろ遅せぇぐらいだよ」
「無茶を言うな。官僚会議の途中で飛び出していったのはどこのどいつだ? 俺が庇ってやらんかったら、おまえ今ごろ神楽の野郎にペナルティを課せられてたぞ」
生理的に受け付けない嫌な名前が飛び出してきて、思わず顔を歪める。
やや投げやりに「その名前を出すな」と悪態をつきながら、粟立つ肌を摩った。
そんな冴霧を呆れたように見遣りながら、奴はひょいっと肩を竦める。
男の名は翡翠。
かくりよの統隠局に所属する官僚のひとりだ。
官僚としては冴霧と同期で、神としてはどちらが長いか微妙なところだろうか。
知り合ったのは──さて、いつだったか?