「お嬢っ! 主はんっ!」

「ご無事ですか!?」

 ひどく焦燥交じりの声が耳に届いた。

 一拍遅れて、それが赤羅と蒼爾のものだと認識した時には、手を伸ばしたふたりに力づくで引っ張りあげられる。

 思いのほか勢いがついていたのか、真宵は冴霧の腕から離れて赤羅の腕の中に飛び込んだ。

「ゲホッゲホゲホゲホッ」

「ま、真宵さまっ……!」

 顔面蒼白で駆け寄ってきた白火。

 水を吐き出す真宵におろおろしているのが横目に見えたけれど、大量に水を飲んでしまっていた真宵はそれどころじゃない。

 尋常でないくらい苦しい。

 肺が圧迫されて今にも喉が擦り切れそうだ。

 誰か助けて、と涙を滲ませた直後、傍らから「貸せ」と低い声が響いた。

 それが冴霧のものだと認識すると同時、ぐっと抱き上げられる。

「吐け」

 言いながら冴霧は真宵をうつ伏せに抱えると、思いきり背中を叩いてきた。

「ゲホッ……ゴホッゴホッ」

 その反動で体内に残っていた水が全て吐き出される。

 内臓が丸ごとひっくり返ったかと思った。鼻の奥がツンと痛んで、さすがに涙が零れ落ちる。


(あ、荒療治……!!)


 あまりの苦しさに真宵はぐったりと脱力した。

 気管がやられてしまったのか、上手く酸素が入ってこない。

 ああもう嫌だ。なんでこんなことに。

 わけがわからないまま、今にも途切れそうな程か細い呼吸を繰り返していたら、仰向けに抱き直される。

 開けた視界に全身びしょ濡れの冴霧が写った。

「……大丈夫だ。ゆっくり呼吸しろ、真宵」

「さ、ぎりさ……ま……」

「いい、喋るな。体力を温存しておけ。死ぬぞ」

 今しがた助けられたばかりなのにまだ死ぬのか。もう最近そればっかりだな。そう思いながらも意識はずぶずぶと沈んでいく。

 真宵は耐えきれず瞼を下ろした。

「真宵さまっ!?」

「お嬢っ! しっかりせんか、コラ!」

 白火と赤羅の焦った声が耳に届くが、答えられるほどの気力も体力もない。

 しかしそんなふたりを遮るように、真宵を抱えたまま冴霧が立ち上がる。