なぜなら、真宵の魂はその神力によって無理やり体に縫い留められているに過ぎないからだ。

 これまでは天利の加護がそれを助けていた。けれど加護がなくなったことで、真宵の体内からは今、時と共に神力がすり減っている状態にある。

 そうして完全に尽きたその時、訪れるのは〝死〟だ。

 だから真宵は、生きるために神々と結婚して加護を得なければならなかった。

 しかしこの場合──もっと前提的にまずい。

 もしもここで全て神力が吸い取られなかったとしても、行き先はかくりよだ。

 真宵はこの高天原から出られないのだ。出れば元来『ここにあるはずのない』魂が剥がれてしまうから。魂が剥がれた体などただの抜け殻。つまり死に等しい。

 妖にとっては桃源郷であるそこも、真宵にとっては冥界なのである。



(……あ、私、死ぬんだ)


 唐突にそれを理解した。理解して、少しだけ笑ってしまった。

 その瞬間、最初に頭に浮かんだ顔が、冴霧だったから。

 ゆっくりと重たい瞼を薄く上げて、青白く揺らめく視界でぼんやりと思い出す。

 冴霧に出会ったのは、いつだったのだろう。

 初対面の記憶も辿れないくらい幼い頃から、冴霧は真宵の傍にいた。傍で何かと真宵の世話を焼いてくれていた。

 天利と同じくらい、彼は真宵の人生の中で欠かせない存在だった。

 家族のような感覚はあれど、親でも兄でもない。冴霧はいつだって冴霧としてそこにいた。

 ああでも、本当はどこかで気づいていたのかもしれない。

(死にかけていた私を救ってくれたのは……きっと冴霧様なんでしょう)

 口から零れる空気の泡が徐々に減っていく。その間もどんどん水底へ沈んでいく体には、もう微塵の力も入らなかった。

 神力が尽きるまでは時間の問題だろう。

(あなたは、最期までなにも話してくれなかったけれど)