なんでも、この泉には神力を吸い取る力があるらしい。

 かくりよへと流される間にその力の殆どを吸い取られた神は、以降何千年と高天原へ上がることは出来なくなるのだとか。

 それほどまでに神力を失った神が、その後どうなるか。
 
 信仰される神ならば、地道に神力を回復して、やがては高天原へ帰ることも可能だろう。しかし信仰もない神は消滅の一途を辿るしかない。

 天利は言っていた。

 罪を犯すほどの愚者は、往々にして人から見放された神々だと。

「マヨイ、オイデ」

 ならばなぜ、この中から声が聞こえるのか?

 それを冷静に考えられるほどの理はもう残っていなかった。

 本来ならば〝罪〟を犯したものにしか反応しないはずの結界が、『なにもしていないはずの』真宵を受け入れた──その意味すら考えられなかった。

 けれど、ただひとつだけ。

 この中に落ちてはいけない。

 それだけが、その恐怖だけが、かろうじて真宵の足を押しとどめる。

 ──しかし。


「ホラ、オイデ……!」


 腕につけていた鉱麗珠のブレスレットが、語りかけてくる音に呼応するように強く光った。そのままブレスレットごと泉へ強制的に引き寄せられる。

 まずいと思う暇もなかった。

 抗いきれなかった真宵の体がぐらりと倒れる。

 そのまま泉の中へ引きずりこまれた真宵は、ゴボッと肺から空気を吐き出した。

 勢いよく体内に流れ込んでくる水。

 急激に力を無くしていく体。

 ──元来、人である真宵に神力はない。

 だが神聖な高天原を包み支える自然の神力は、長くここで暮らしてきた真宵に多大な影響を及ぼしている。

 体内には少なからず神力を溜め込んでいるし、それは真宵にとって命の綱そのもの。言葉通り、神力がなければ真宵は生きられない。