「へぇ、えらい綺麗なもんやなぁ。お嬢も気に入ったみたいやん」

「うん。大事にしなきゃね」

 真宵は鉱麗珠を宙に透かして見ながら微笑んだ。

 誰かに贈り物をしてもらったのは、すごく久しぶりな気がした。

 そこまで物欲があるわけではないけれど、自分を思ってのプレゼントは嬉しいものだなと思う。

 ちなみに冴霧はあんなに求婚してくるくせに、真宵へ贈り物をしてきたことは一度もない。なんとも乙女心がわからない神様なのだ。

「そんじゃあ用事も終わったし、オラはこれで帰るでな」

「は、はい。あの、ありがとうございます、山峰さま。これを贈って頂いた方にもどうかお礼をお伝え下さいね」

「また次の取引の時に伝えとくよ。んじゃなあ」

 山峰はササッと風呂敷をまとめると、軽く手を振ってさっさと踵を返した。

 歩いていくかと思いきや、次の瞬間、山峰は大きく跳ねた。

 ぴょーんぴょーんと兎が跳ねるように去っていく背中を見送りながら、真宵は遠い目をしてぼやいた。

「歩き方が独特でいらっしゃる……」

「んーや、ありゃあ走ってんやろ」

「えっそうなの!?」

 神とはつくづく不思議なものだ。

 神の国で神に育てられた真宵でも、未だにこうして驚くことがあるのだから、本当にこの高天原という場所は面白おかしい。

「それにしても、これ送ってくれたのいったい誰──」




『…………で』


 あれ、と真宵は顔をあげる。

(いま一瞬、なにか聞こえたような……)

 しかし耳を澄ませても、特別変わった音は聞こえてこない。

 なんだ気のせいか、と歩きだそうとした時、廊下の先にある炊事場から白火がぴょこんと顔を出した。

「真宵さまぁ。味見をしてもらいたいんですけど、お客様帰られました?」

「あっ、はーい。今行くよ」

「味見! オレもオレも!」

 結局その後も特に何か聞こえてくることはなく、真宵はすぐにこの違和感を忘れた。



 しかし、赤羅と蒼爾が離れに滞在し始めてから四日後──。

 その事件はなんの前触れもなく、真宵の元に訪れたのである。