山峰は元々、地上のとある山の守り神として生まれた神らしい。
何かと情報通で、道具屋の傍ら情報屋としての仕事もしているのだと、かつて天利がぼやいていた。
(でもかか様は、山峰様のことあんまり好んでなかったような……)
元より天利は好き嫌いの激しい性格だが、好かない神には特に冷淡だった。
幼い頃ゆえに定かではないが、記憶が正しければ山峰はとりわけ嫌われていた気がする。
「それで、ええと今日は何か用事でしょうか……?」
だからといって追い返すわけにもいかず、真宵はちらりと後方を振り返りながら尋ねる。
タイミング良く、赤羅が居間からひょっこりと頭を出した。
「お嬢ー? 誰か来たんかあ?」
赤羅の姿を見て驚いたのか、山峰は一瞬ぴきりと硬まりながらも、すぐに表情を和らげた。垂れた目尻に深皺が寄り、柔和に「これはこれは」と顔を綻ばせる。
「誰かと思ったら、冴霧様のところの」
「んあ? あー、なんや情報屋のオッチャンやん」
赤羅はくあっと大きな欠伸を零しながら、のんびりと歩いてくる。居間で昼寝していたはずだが、どうやら来客で目が覚めてしまったらしい。
ちなみに白火は今、夕食の準備中だ。蒼爾は急遽増えた二人分の食材の買い出しに出ているため、何かあれば赤羅だけが頼りだった。
これまでは天利が間に入ってくれていたから気にしたこともなかったが、冴霧以外の神様への対応には正直慣れていないのだ。内心胸を撫でおろす。
「久しいなあ。最近見かけへんかったよな?」
「ははは、お陰様でなにかと忙しくさせてもらっていてなあ。ここ最近はずっとかくりよの方に降りていたんでさ」
「へえ、そりゃ結構なことやん。オッチャンにはうちも何かと助けてもらってるさかい、今後とも贔屓にしたってや」
なるほど、仕事関連で繋がりがあったらしい。