「……冴霧様は本当の自分を見せてくれない。私が触れたいと思ってる部分に触れさせてくれない。もしかしたら私を守るためなのかもしれないけど、あの方はそれで私が傷ついてるってことすら気づいてないんだ」
──この一方通行さが、ひどく、無性に、嫌だ。
「私は人の子だから、結婚したら最後……もうその人から離れられなくなる。それが辛いの。好きだからこそ、好きな人の懐にいるのに、彼に触れられないのが辛い。そんな硬い鉄壁みたいな鎧を被った夫と長く一緒にいるなんて普通に無理。たぶん、どちらにしてもストレスで死んじゃう」
冴霧が好きではないから結婚を拒否している──のならどれだけ楽だったか。
先ほど真宵は冴霧の愛の重さを変態だと思ったが、改めて考えてみれば自分も大概だった。
むしろ、真宵の方が幾分血迷っている気さえする。
「……まぁ、他にもいろいろ理由はあるけど……」
今度は赤羅と蒼爾が全力で引いている気配がしたが、真宵は構わず続けた。
「──だからね、ふたりとも。どうか私が死んだら白火をよろしくね」
「っ、真宵さま!」
「私は白火が大事だから。家族だから。絶対にひとりになんかさせないよ」
真宵はその場にしゃがみこんで白火と視線を合わせると、目を細めて微笑んだ。
「……ね、白火。お願い」
くしゃりと白火の顔が悲壮に歪む。
後ろで赤羅と蒼爾も、世界が終わることを悟ったような顔をしていた。
真宵にとっても、兄同然の彼らとの別れは辛い。
けれど、それでも、真実を知ってからのこの二年は、自らの『死』を受け入れるために生きてきたようなものなのだ。
真宵のなかで答えはもうとっくに決まっている。
「かか様が起きたら、私は幸せだったよって伝えてね」