もしかしたら御殿の方まで聞こえたかもしれないな。ああ朝から大声なんて本当に喉に悪い。それもこれも全て冴霧様のせいだ。私は悪くない。

 んんっと咳払いして叫んだ余韻を消し去りながら、心の中で粛々と言い訳する。

「おまっ、ふざけんなよ! 俺の鼓膜を殺す気かっ!」

 よほど頭に響いたのか、ゴロンとひっくり返って両耳を抑えて悶える冴霧。

 そんな彼を一瞥しながら、真宵はさっさと立ち上がってカーテンを開けた。


 地上では雨季の真っただ中、水無月──六月の半ば。

 けれど、この天上の国【高天原】の天気は気象を司る神々に左右されることが多いので、四季こそあっても空模様はいつだって気まぐれだ。

 ちなみに今日は、かすかに白ばんではいるものの清々しい青空が広がっている。珍しく雲ひとつ浮かんでいない。どうやら真宵とは違ってご機嫌が良いらしい。

 ここ数日閉めきっていた窓を開け放ち、すっきりとした笑みを零す。

「うーん、良い天気」

 不法侵入者を安易に招き入れた張本人が、「真宵さまぁっ!!」と派手に炎を巻き散らかしながら部屋に飛び込んでくるまで、あと数秒といったところだろうか。

(まあ、ある意味……平和な朝かな)

 頬を撫でる心地良い風の音に、真宵は穏やかな心持ちで耳を澄ませた。