「恐ろしいことを言わないでください。主は龍神ですよ!? お嬢が別の殿方と結婚なんてしたら、高天原は終わりです。いや高天原どころか、かくりよもうつしよも消されます。全ての世界がまるごと消滅します……っ!!」
「だから大袈裟──」
「やないんやって! 大袈裟どころか足りへんくらいや。主が本当に怒ったらこの世界なんてあっちゅうまに無に還るからな。生命の始まりすら望めん世界になるのは決定事項や。大事なとこやからな、もっかい言うで。──決っして、大袈裟やないっ!!」
今にも掴みかかってきそうな勢いだ。
いったいこの鬼たち、主にどんな弱みを握られているのだろう。いくらなんでも怯えすぎではなかろうか。
「──……それに、もしお嬢が主はんの嫁さんにならへんかったら、主はんがっ……」
「いけません赤羅っ!」
蒼爾が赤羅の口に飛びつく。押し倒されんばかりの赤羅も、ハッと目を見開いて何かを堪えるようにぐっと拳を握りしめた。
そのあからさますぎる様子に、真宵は眉を顰める。
「……主が、なに?」
鬼二人がおずおずと真宵を見て、しかしすぐに別方向へ目を逸らした。
あからさまに隠し事をしている時の反応だ。
真宵は追い打ちをかけるように尋ねる。
「私が冴霧様と結婚しなかったら、冴霧様はどうなるの?」
「………………」
「……………………」
赤羅と蒼爾は肩を揺らして、互いに目線を交わし合った。
やがて重苦しく口を開いたのは蒼爾の方で、赤羅は余計なことを言わないようにか、きゅっと唇を引き結ぶ。
「……すみません、お嬢。これは言えません」
ふう、と真宵は息を吐く。
まあ聞きはしたが、この鬼たちは答えないだろうなと思っていた。本当の意味で冴霧が隠していることを、まかり間違って従者が口を滑らせることはない。
喋りたい、という意思はどうやらあるようだけれど。
「契りを交わしているのです。言ったら最後、私たちの首が飛びます」
「……せやった。堪忍な、蒼ちゃん」
またもや込み上げたため息をぐっと飲みこんで、真宵は悄然と首を振る。
「良いの。気にしないで」
これに関しては、ふたりが悪いわけではない。真宵がいくら粘って聞き出したところで、そう簡単に口を割らないのは目に見えていた。