「本当に冴霧様から何も聞いてないの? 私、求婚される度にわりと辛辣なお断りを繰り返してるし、一度だって受けたことないんだけど」

 つい先日も変態呼ばわりしたばかりだ。冴霧の求婚に関しては今に始まったことではない。

 まあ皮肉にも、渾身の拒絶すら効いているようには思えないが。

「そろそろ愛想尽かされても良い頃かなーって思ってたし」

 ぽんぽんと白火の背中を軽く叩いてあやしながら言うと、二人の鬼は顔を真っ青にしながら、ぶんぶんぶん!と激しく首を横に振った。

「な、何も聞いてないどころか、毎日のように『テメェらのせいで今日も俺の花嫁に会えねぇ』とか『オレに黙って真宵に会いに行ったら殺す』とか『テメェら早く仕事終わらせねぇと今月の給料抜きだからな』とか恐喝のオンパレードで……!」

「せや! この間なんて『真宵がいない世界なんてつまんねぇよなぁ』って言うもんやから『せやね』って答えたら、地の果てまでぶっ飛ばされたんやで!」

 なんだその鬼上司。

 ハラスメントパラダイスじゃないか。

 さすがの白火もぴたりと涙を止めて、全力で引いたような目線を鬼たちに向けた。

 子どもの本気の引き顔など滅多に見れるものではない。

「……冴霧様ってやっぱり変態なの?」

「ちょっと怖くなりました……。真宵さま、やっぱり冴霧様じゃないお婿さん探しますか? ぼくは真宵さまが生きてくれればもう何でも良いんですけど」

 白火の極々真剣な言葉に、ふたりの顔がとうとう土気色まで明度を落とす。