「あなたが悪いんですよ、お嬢。そんな無慈悲なことをサラッと言うから」
「む、無慈悲って言われても……え~~~~……」
だって、どうしようもないのだ。
真宵は死ぬ。その定められた未来が刻一刻と迫る中、どうしたって避けては通れない話題だ。
そう、これはいわゆる生前整理というもので──。
「だいたい死ぬってなんや。死なへんやろお嬢は」
「え、死ぬよ」
「なに言ってるんですか。あなたは冴霧様と結婚するんでしょう?」
なんだもしや伝わっていないのか、と真宵は眉を寄せる。
小柄な真宵にとっては、たとえ六歳程度の子どもでも抱えるのはわりと苦労する。
しかし今離すわけにはいかないと、何とか抱き上げながら立ち上がった。
「私、冴霧様と結婚しないよ」
「……は!? いやいやいやいや、なに言うてんの!?」
一時停止とわずかな沈黙の後、赤羅は面食らったように身を乗り出した。その拍子に古い板間がわずかに歪み、ミシミシと軋んだ音を立てる。
床が抜けやしないかと不安を覚えながら、真宵は眉尻を下げた。
「何と言われても……冴霧様にだって、何度も断ってるし」
「まさか他に想い人が……!?」
今度は蒼爾が食いついてくる。
「もう、そんなわけないでしょ。誰とも結婚しないってだけの話だよ」
誰ひとり、真宵が冴霧と結婚すると信じて疑うものはいない。
とりわけこのふたりに関しては、幼い頃から真宵が冴霧に抱いている想いを知っているがゆえの反応なのだろう。
(それとこれとは話が別っていう乙女心がなあ……)
境遇上、女友達は数えるほどしかいないし、彼女たちとて神なのでそう頻繁には会えない。
つまり真宵は、このえもしれぬ気持ちを共有出来る相手がいなかった。
吐き出してしまえば楽になる気もするが、この内に宿る拗れた想いを口にするのはいささか恥ずかしいという気持ちもある。なんとも複雑だ。