床に右手をついて体勢を整えながら、左手は白火の背中へ。

 触れた背中はわずかに痙攣しており、おやこれはと真宵は来たる殴打に備えた。

「……だから……ぼくはっ……嫌だと、あれほど……っ!」

 しかし予想に反して、強く押し付けるように真宵の胸に顔を埋めてきた白火。

 今にも掠れ切れそうな弱々しい声に拍子抜けし、むしろ戸惑うのは真宵の方だった。

 てっきりポカポカと殴られながら反抗されるものだと思っていたのだ。

「どうして、どうしてわかってくださらないんですか……っ」

 ぼろぼろと大粒の涙を流しながら、けれどいつものようにわんわんと声を上げて思いのままに泣くわけではない。

 子どもらしくない、声を殺した泣き方。

「嫌だ……真宵さまと離れるなんて、そんなの、ぼくは、絶対に嫌ですっ!!」

 衣服に染みこんだ白火の涙の熱を感じながら、真宵は息を詰める。

(酷なことを言ってるのは、重々わかってるつもりだけど……)

 切願。

 今にも消えてしまいそうなほど、辛く苦しい響きを持った訴えだった。

 死ぬのは真宵だが、この様子では白火の方がずっと思い詰めていたのかもしれない。

 置いて逝く側と、置いて逝かれる側。

 果たしてどちらの方が罪なのだろう。

「……ごめん。ごめんね、白火」

 天秤にかけられない答えを探っても正解はない。

 真宵に出来るのは謝ることくらいで、白火の胸を占めている痛みの取り除き方などわからなかった。

「ちょ、ちょいと待ちいや。なんでそんな葬式みたいな空気になっとるん」

 赤羅が焦ったように腰を浮かせ、蒼爾は呆れを滲ませながら嘆息した。