「あのね、ちょうど良かった。私、今日、二人に会いに行こうと思ってたんだよね」
突然なんの話だ、と鬼たちが不思議そうな顔をする。
血の繋がった兄弟ではないが、長年共にいるせいか、この二人は時折面白いくらいにシンクロするのだ。
「なんや珍しい。用事でもあったんか?」
「うん、白火のことで」
その途端、白火は全身を震わせてまさかと顔をあげた。元々丸い目をさらに丸くして、今にも蕩けるような蜂蜜色の瞳は零れんばかり。
嘘ですよね、やめてください、冗談でしょ。
口にこそ出していないが、そんな正気を疑う声が聞こえてくる。
(これはまた泣かれるなぁ……)
さすがに気の毒にならないでもないが、事情が事情だけに真宵も譲れない。
「ほら私、もうすぐ死んじゃうでしょう?」
「は?」
「だからふたりに白火のことお願いしたくてね。親代わりとまではいかずとも、せめてかか様が目覚めるまでは保護者になってくれたら有難いなあって──」
ぼふんっ!と激しい音を立てて、白火が人の姿に戻った。
当然の事ながら、突然腕の中で大きくなられたら真宵も慌てる。
焦って後ろに身を引いた真宵にのしかかってきた白火は、そのまま押し倒す勢いで頭から胸に激突した。
「うっ……!?」
「また……っ! またそれですか真宵さまっ!」
耳をつんざくような、悲鳴にも似た声が上がる。
想定外のタイミングで健康的な六歳児の重さに耐えきれるほど、真宵は体幹を鍛えていない。
踏ん張りきれず、思いきり後頭部を床に打ち付けそうになる。
「おっと」
だが瞬時に危険を察知して行動した蒼爾が、目にも留められない速さで真宵の背中に手を差し込んだ。
軽く受け止められ、真宵はほっと安堵の息を吐く。
助かった。あやうく頭がかちわれるところだった。