「あぁ……主にお嬢のそばについているよう命じられたのです」

「冴霧様から?」

「せや、例の集まりがあるんやって。一週間くらいかくりよに降りる言うてたわ」

 なるほど、と真宵は納得しつつ首を捻る。

「一週間……結構長いね?」

 かくりよは、高天原とうつしよの間にある世界のことだ。

 高天原が神々の住まう天上界、うつしよが人の住まう下界だとすれば、かくりよはその中間地点。

 神から妖怪まで、いわゆる〝あやかし〟と呼ばれるモノたちが共存して暮らしている桃源郷なのだと、前に冴霧から聞いたことがある。

 そんなかくりよには、『統隠局(とういんきょく)』という、かくりよ全体を統治する行政機関がある。

 そこに所属する官僚たちが日々かくりよの情勢を管理しているおかげで、さまざまな種族が入り乱れていても平和が保たれているのだとか。

 そして冴霧こそ統隠局の官僚の一人だ。天つ神はどうやら彼だけらしい。

「最近はかくりよもなにかと物騒ですからね。ついこの間も悪霊絡みの事件でひと騒動ありましたし……。まあ高天原担当の主にはあまり関係のない話ではありますが」

「そうなの?」

「ええ、そちらはかくりよ担当の官僚様の管轄ですから。定期官僚会議は情報共有が主な目的なので、さすがに出席しないわけにはいかないんですよ」

 高天原以外のことについて知識が乏しい真宵。

 正直なところ外界の仕組みはいまいち理解が届かないのだが、ひとつ疑問に思ったことを尋ねる。

「でも冴霧様は、天神会(てんじんかい)の幹部でもあるよね?」

 赤羅が鷹揚にうなずく。

「せやな。むしろそっちが本業やろ」

 天神会は、高天原に存在する統隠局と同列の行政機関だ。

 最高神である天照大神を頭目に、数多くの神々が所属している。

 とりわけ上層部に名を連ねる幹部は高天原の名を背負って立つような大神ばかり。

 なかでも冴霧は、天利とそう変わらない権力を持つ、随一のお偉いさんらしい。