「なんやぁ、蒼ちゃんズルいやん。オレもお嬢にぎゅうされたい」
「役得ですね。主に見られたら殺されそうですが」
勝手知ったる様子で居間まで真宵を運んでくれた蒼爾。
鉄瓶がぶら下がる囲炉裏には、すでに火が灯っていた。炉縁を囲む座布団の上にそっと下ろされたが、真宵はすかさず蒼爾の袖口を掴んで引き留める。
「おやおや……」
「んえぇ、ちょ、ほんまズルいわ。お嬢こっち来ぃや。今度はオレが抱っこしたる」
今度は赤羅に抱き上げられる。
赤羅はひょいっと膝の上に真宵を座らせながら、自らも座布団に腰を下ろした。ちなみに身長二メートル超の巨躯は、まったくその範囲に収まっていない。
ややくすんだ緋色の髪は自由奔放に跳ねており、頭には二本の黒い角が生えている。
一見するとやんちゃそうな印象を抱くが、よく見れば目尻は下がり気味で人懐こそうな甘い顔立ちだ。梔子色の瞳も相まって、角のインパクトは緩和されている。
赤羅は『馬頭』と呼ばれる鬼の怪だ。
この聞き慣れない独特な口調は、地上の関西と呼ばれるところで長らく暮らしていた影響らしい。
「しっかし、お嬢はいつまでもちっこいんやなぁ」
「セッちゃんたちに比べたらみんな小さいよ……」
「そりゃオレら鬼やもん。なあ蒼ちゃん?」
水を向けられた蒼爾は、わざわざそばに座布団を引っ張ってきて恭しく正座する。
ようやく声を発した真宵にホッとしたのか、涼し気な目元を細めて柔らかく微笑みながら「ええ」と頷いた。
「鬼ってみんな大きいの?」
「そうですね、種族的には大きい傾向にあります。中には三メートルを越す方もいらっしゃいますから、私たちはこれでも小さい方ですよ」
へえ、と真宵は上の空で相槌を打つ。
頭の両側に緩急を描く角を持つ蒼爾は『牛頭』という怪。赤羅と同じく、鬼の妖怪だ。