「真宵さま!?」
「……白火……私、今、何してた?」
「え?」
「……私、いつ起きて……」
動悸が、酷い。
状況が理解出来なくて──否、出来ているからこそ困惑していた。
痛む頭と騒がしい胸を押さえながら、どうにか落ち着こうと努めるものの……ダメだ。意味がわからない。
なぜ眠っていたはずの自分がこんな場所にいるのだろう。
「も、もしや具合が悪いのですか!? ぼ、ぼくお医者様を呼んできますっ!」
狼狽えた白火が顔面を蒼白にして玄関を飛び出していった。その直後。
「うぶぇっ!」
「うおっ、なんやぁ!?」
蛙が潰れたような白火の声と、ひどく驚いたような素っ頓狂な声。
(この、声は……)
真宵はゆらゆらと顔を上げた。
玄関の扉の先、前を見ずに突っ走った白火が顔面から突っ込んだらしい彼は、真宵を見るなり目を丸くして駆け寄ってきた。
「ほんまになんやねん。どないしたんお嬢」
「おや。そんなあられもない姿で玄関に座り込んで……何があったんです?」
そこにもうひとつ声が聞こえた。
後ろからひょこりと顔を出した彼も、真宵のそばにしゃがみ込んで、そっと顔色を窺うように覗き込んでくる。
特殊なしゃべり方をする方が赤羅。
敬虔深い口調の方が蒼爾だ。
真宵にとっては兄のような存在である彼らは、こう見えて冴霧の従者である。
「コンちゃん、説明しぃや。どーゆーことやねん」
「ぼ、ぼくにもなにがなんだか……ただ真宵さまの様子がおかしくて……っ」
「ふむ。まあひとまず中に上がらせてもらいましょう。お嬢、失礼しますよ」
蒼爾に抱き上げられる。
十九にもなったというのに、このふたりには未だ幼い子どもだと思われている節があるため、こういう扱いは慣れっこだ。
実際、冴霧と共に数え切れないほどの時を生きている怪の彼らからすれば、真宵など赤子も同然なのだろう。
そう思うと無理して大人振っても仕方ないな、と真宵は十五の時には悟っていたのだった。
よって『お嬢』と呼ばれようが、幼子のように抱かれようが抵抗はしない。
むしろ蒼爾に頭を擦り寄せながら、どうにか心を落ち着かせようと努力する。