「真宵さま、眠れないのです?」

 褥の中で落ち着きなくもぞもぞと動いていると、腕の中で毛玉のように丸まっていた白火が遠慮がちに声をかけてきた。

 鬱陶しかったかなと申し訳なく思いながら、真宵は唸るように「うぅん」と曖昧な返事をする。

 子狐姿の白火をぎゅっと抱きよせながら、真宵は微塵の遠慮もなく柔らかいお腹に顔を埋めた。

 温かい。これぞ天然湯たんぽだ。真夏は暑いけど。

「もふもふ……この絶妙なふわふわもちもち感が最高……」

 そんな失礼なことを口走ると、白火が微妙な顔をした──ような気がした。

 丸々した毛玉の状態になると、表情の変化がなかなかわかりづらい。

「大丈夫。白火がいればそのうち寝れるよ」

「……ならどうぞぼくでモフッてください、存分に」

「うふふ」

 夜に眠れないのは今に始まったことではない。もともと寝つきは良くない方だ。

 最近は変な夢を見ることが多くて、なおのこと眠りが浅くなっているけれど。

「ねえ、白火。私がいなくなったら寂しい?」

 びくりと白火が体を震わせる。

「やめてくださいってば、そういうの!」

「怒った。でも白火だって覚悟はしててくれなきゃ」

 抱きしめていた腕の力を緩めると同時、白火がぐっと言葉を詰まらせた。


「……嫌、なんです。考えたくないんです」


「うーん、その気持ちはわかるけど……」

「ぼくは天利様に、生涯真宵さまの従者として心身ともにお仕えするよう命じられたんです。そのために生まれたと言っても過言ではありません。主命すなわち存在意義ですから、真宵さまを失うのは、ぼくが消えるということと同義ですよ」

(とはいっても、ねえ……)

 確かに白火は、天利から生みだされた瞬間『おまえの主は真宵だよ』と命じられていた。その時のことは真宵も昨日のことのように覚えている。

 あれは十三歳の誕生日。年頃を迎える真宵の世話役として贈られた子だった。

 物ではなく『従者』というあたりが、なんとも天利らしい。

 そこから六年、真宵と白火はどんな時も一緒だ。

 時に弟のようで、時に子どものようで、だけどもやっぱり忠実なる従者で──今となってはれっきとした家族の一員。

 そんな白火だからこそ、真宵は心配だった。

「……あのね、白火のことセッちゃんたちに相談してみようと思うんだけど」

「は!?」

「うん、ごめん。絶対嫌がる気はしてたけど、主としては今後のことも責任持って考えないといけないじゃない? 白火はそう言うけど、実際消えないし」

 ぶわわわっ!と全身の毛をこれでもかと逆立たせた白火。

 瞬く間に大粒の涙をためて真宵の腕を脱兎の勢いで抜け出したかと思えば、部屋の隅で丸くなった。