最高神の『休眠』は高天原全体に影響する。この事情がどれほど知れ渡っているのかは定かではないけれど、すべての神々に申し訳なくて、もはや立つ瀬がない。

 生きられないのなら、いっそこのまま──。

 そういう気持ちが拭えないのは、こういった背景があるからだ。

 冴霧の求婚を受け入れられないのは、他にも明確な理由があるけれど。

「どちらにしても、今の状態じゃ先には進めないよね」

 加護がなくなった状態の真宵が生きられる期間は、最大で二年くらいだろうと言われている。天利が眠ってから、もうすでに半年。

 本当にその通りならば、残り時間は一年半。

(……でもたぶん、そんなに残ってない)

 真宵はここ半年の間、定期的にこの儀式を行っているため、霊力の消耗が著しく激しい。

 いくら縮小版とはいえ、少なからず霊力は流れ出るし、体にも相応の負担がかかる。

 おそらく直接的に〝生きられる時間〟を削っている状態だ。

「冴霧様が私を求める本当の理由が知りたいの。なんのメリットもなしに『許嫁』を受けいれたとも思えないし。……それ以前に、何か隠してることがあるもの」

「そう、なのですか?」

「うん、ただの勘だけど。ほら、あの方は裏表が激しすぎるから」

 契りを交わせば真宵は生き長らえることが出来る。

 刻一刻と死が迫る今、もう猶予はない。

 だがどうしても踏み込めないのは、冴霧がなにも打ちあけてくれないからだ。

 何か重要なことを隠しているのは火を見るよりも明らかなのに、彼は決して真宵にそれを言わない。素振りすら見せない。だから、どうしても信じられない。

 冴霧との付き合いはもう記憶がないほど幼い頃からだが、なかなかどうして、ふたりを隔てる壁を壊すことが出来ないのである。