「──それは……人は一度しか神と契れないから?」

 正解、と真宵は微笑んで白火の頭を撫でた。

「そう。……その〝一度〟を消費しないために、かか様は重要なことを私に言わなかった。本当に眠る寸前までね。私がこれ聞いたの前日の夜だし」

 契りには、いくつか種類がある。

 ひとつは主従関係のように、いくつかの制約の元で交わされるギブアンドテイクな契りだ。

 人間が式神を使役したりする時にも用いられるもので、これに関してはとくに回数制限はない。

 ここでいう契りは──【魂の契り】のことを指す。

「さあここでもう一つ問題です。人と神が魂の契りを交わすのはどんな時だ?」

「え、えと……?」

 白火が小首を傾げる。さすがにこれは知らないらしい。


「──正解は『婚姻』。結婚するときだよ」


 ただの人の子と神が契る。それは魂の一部分を神へ受け渡す行為に等しい。

 女神との契りの場合、名目上『婚姻』とはならないだろうけれど、行為自体は同じこと。

 要約すれば、人と神が結婚するには【魂の契り】が必須なのである。

 ゆえに一度きりしか許されない契りの制約がある限り、決して使い時を失敗してはならないものであるわけで。

「つまりかか様は、私が誰かと『結婚』するために契りを交わさなかったんだよね」

「……誰かって、」

「うん。なぜか冴霧様に限定されちゃってるけど」

 否──真宵との結婚を望む神々が他にいないわけではない。

 むしろ引く手あまた。

 次から次へと恋文が届くので、もはや専用の部屋を作ってしまったくらいには、ひっきりなしに数多くの神々からプロポーズされている。

 ただし、そこに『愛』はない。

 神ともあろうものが、ただの人の子を娶ろうとするのは、相応の理由があるのだ。