穢れは深まれば深まるほど神力を喰い荒らす。蝕んでいく。よってその身が穢れたぶん神力は比例して弱まり、結果的に神としての存在が霞んでいく。

 天照大神ほどの名の知れた大神ともなれば、万が一にも信仰が途絶えることはないけれど、神である限りこの穢れからはどうしたって逃れられない。

 ゆえに神々は、願いを聞き届けて失った神力を蓄えるため、そしてなにより穢れを祓うため、定期的に清められた場所で眠りにつくのだそう。

 そのスパンは神々の格によりけりだが、大神は基本的に数千年に一度。

 ──眠る期間は、千年。

「私はね、これでも怒ってるんだよ」

「怒ってる……真宵さまを置いて眠ってしまったことを、ですか?」

「ううん。いや、もちろんそれもあるけど……そうじゃなくて」

 千年なんて、真宵にとっては想像も出来ないほど長い時だ。けれど、実質的に寿命を持たない神々にとっては、ほんの一瞬にしか過ぎない時間なのだろう。

 しかも大神ほど眠ることに抵抗がないのだと、前に冴霧から聞いたことがある。眠っている間に、信仰がなくなって存在が消えるという心配がないから。

 確かに天利もそうだった。

 ちょっとコンビニ行ってくるわ、みたいなノリで眠ってしまった。

 それに関してはもはや仕方がないというか、人と神ではどうしたって価値観が異なる部分はある。

 たとえ高天原で育っても、やはり真宵は『人の子』なのだ。異質なのは真宵の方で、立場を弁えず神々の仕組みに口を出すほど愚かではない。

 ならばなにに真宵が怒っているのかというと──。

「私には穢れを祓う力がある。それは白火も知ってるよね?」

「はい」

「じゃあなんでかか様は、私に頼って契りを交わさなかったと思う?」

 白火はぎゅっと両の手で拳を作り、言いにくそうに顔を俯けた。