「真宵さまっ!」
白火が悲鳴に近い声をあげて、慌てたように駆け寄ってくる。
「ご、ごめん。大丈夫だよ」
「でも、でも、やっぱりこんなのだめです……っ! このままじゃ、真宵さまのお体の方が先に限界を迎えてしまいますよぉっ!」
今にもこぼれ落ちそうなほどの涙をためて、白火がいやいやと頭を振る。
口調こそしっかりしているが、実のところ白火は、神使として生み出されてまだ六年弱の時しか経っていない。つまり、中身も見た目通りの子どもなのだ。
生みの親が眠りについてしまった今、主である真宵が消えれば、彼はこの広い御殿でひとりぼっち。天照が目覚める千年後まで途方に暮れるしかなくなってしまう。
同じ神使の仲間はいるが、御殿管理を任されている彼らとの関わりはどうやら薄いらしく、白火がそのなかに混ざっているところは見たことがなかった。
主命が異なるからか、それとも根本的に何かが違うのか──。
そのあたりの事情はわからないが、それを思えば必死になるのも無理はない。
命を削る行為に自ら飛び込んでいく主を、とても見てはいられないのだろう。
「泣かないで、白火」
真宵とて、決して泣かせたいわけではないのだが。
「無理ですっ! だって、こんなことしても、天利様は……っ」
「わかんないよ? さすがに千年分の眠りを私のみじかーい生涯で賄えるとは思ってないけど、それでも少しくらいは穢れを祓うお手伝いは出来てるはずだし」
「だとしてもっ!」
「うん。まあ、私が生きてる間には会えないだろうけどね」
──そもそも、神が眠りにつくのは決してイレギュラーなことではないのだという。