そんな神々を相手に取り締まらなければならないのだから、冴霧のような存在は少なからず必要なのだ。

 高天原の平穏を保つためにも。

 善良な神が人々の願いを聞き届け続けるためにも。

 ──それはたとえ、真宵という【清めの巫女】の存在がなくたって。


(けどもう、覚悟なら出来てる)


 全てを知った上で、全てを理解した上で、真宵は冴霧と共に生きていく選択をした。

 冴霧が懸念しているような『傷つくこと』は、これから先さらに大きなものになって真宵を襲うのかもしれない。

 もしかしたら真宵自身も心を殺さなければならないようなことも、想像を絶するような現実も待ち受けているのかもしれない。

 それを丸ごと受け入れるとは言わないけれど。

 ──たとえどんなことでも、正面から向き合う覚悟なら持っているつもりだ。

「ねえ、冴霧様。私は、冴霧様の『逃げた』っていう選択を奪いましたよね」

「……そうだな」

「はい。だからもしこれから先、また逃げたくなった時は言ってください。その時にあなたから奪った『逃げる』という選択を返します」

 どういうことだ、と冴霧が眉を下げる。

「なにも消えることだけが『逃げる』じゃありませんから。今度は私も一緒にその『逃げる』方法を考えます。大丈夫。ふたり一緒なら、他のなにもかもを捨てたって良いですし、きっと道はたくさんありますよ。冴霧様が犠牲になることも、私が犠牲になることもなく、出来れば誰も傷つかない方法が理想的ですけどね」

「ふたり、一緒……か」

「契りを交わしてしまった以上、私と冴霧様はもう生涯離れられませんから」

 五分五分だと言われていた魂の契りは、不思議なほどするりと成功したけれど、きっとそれにもなにか意味があるのだろう。

 もしも冴霧の差し向けに乗って他の神々と契りを交わしていたとしても、成功しなかったのではないかとすら思う。