はあああああ、と冴霧は深いため息を吐き出した。
ふたたび向き合うように体勢を変えると、真宵の頬に手を添えてそっと顔を近づけてくる。
こつん、と額が重なり、真宵は思わぬ行動に目をぱちぱちさせた。
一瞬、口づけされるのかと思ってしまった自分が恥ずかしい。
「言ったろ、今日はなにもしねえって。頼むから大人しく寝てくれ」
「寝てますけど」
「…………。余計な行動をすんなってことだ。ほら目ぇ瞑れ」
仕方なく渋々と目を瞑る。
それでも触れ合った額が離れることはない。
まさか、このまま寝ろと言うのだろうか。
間近に感じられる冴霧の距離は、息遣いさえも共有しているかのようで、とても眠れそうにない。
しかしふたたび目を開ける勇気もなく耐えていると、そっと離れた冴霧が「これは寝言だけどよ」と、寝言の割りには存外はっきりとした声を落とした。
「……ここ数日、真宵と顔を合せなかったのは、俺がいなくなった後の引継ぎをあちこち手配してたからだ。俺は今日、消えるつもりであの野郎んとこに行ったからな」
あの野郎、とは山峰のことだろう。
真宵はまさか山峰が今回の事件の黒幕だったなんて思いもしなかったけれど、おそらく冴霧は最初から彼を疑い、処刑のための算段がついていたのだ。
そうでなければ、この劇的な早さで犯人を突き止め、刑を執行するなど出来るわけがない。
ちなみに山峰は、気絶したまま拘束されて天神会の役員に引き渡した。
冴霧の神命が使えない状態ということもあり、実行犯でないことも加味して流獄泉流しの刑に処されるらしい。
実質減刑ということになるが、山峰ほどの小神ならもう二度と高天原には上がれなくなる。
そこを見通しての決定なのだとか。