ひとつの布団にふたりで寝る、という謎の構図に困惑しながら、真宵はおずおずと体の向きを変えて冴霧と向き合った。
上から横になっただけで距離は変わらず近い。
自身の腕を枕代わりにして、なぜか拗ねたように眉間に皺を寄せている冴霧。
髪と同じ白銀の睫毛の長さに驚きながら、「あの」と小さく声をかける。
「……なにもしないんですか?」
「はあ?」
冴霧がぎょっとしたように目を剥いた。
「だって、これ、いわゆる初夜ってやつでは……」
「しょっ……バッカなこと言うんじゃねえよ! 俺をそのへんの節操ねえガキと一緒にすんな。そういうことはちゃんと、その……順序ってやつを踏んでからだな……」
「順序」
「あーっ、もういい聞くな阿呆!」
ぐいっと冴霧に腰を引き寄せられる。
冴霧の胸に額が当たり、抱きしめるように背中に手が回された。
驚いて首をもたげると「だから見んな」と後頭部を抑えられ、「うぷっ」と呻きながらふたたび冴霧の胸に顔を埋めてしまう。
そのとき、ふわりと鼻腔をくすぐった菊の花の香り。
あっ、と思わず声が漏れた。
もう二度と感じられないのではないかと思っていた大好きな香りに、いつの間にか強張っていた全身の力が自然と抜けていく。
(冴霧様の匂いだ……)
ぐいぐいと顔を擦り付けてその香りを堪能していると、そのうち冴霧の体がふるふると震えだした。
かと思えば、急にごろんと仰向けに転がった冴霧。
ん?と顔を上げてみると、両腕で額を覆って何やら悶えているご様子で。
「冴霧様? すみません、くすぐったかったですか? ちょっと久しぶりに邪が混ざらない冴霧様の香りだったので、つい……」
「……俺は、無だ」
「無? あっだめですよ、まだ神力も回復してないのに神命なんか使ったら」
「ちげえよ!」