なにがどうだめなのか。
だいたい邪魔ってなんだ。
(絶対、ぜーーーったい余計な気を回してる……っ)
そうこうしているうちに、冴霧に連れ去られて視界から三人の姿が消えた。
「ま、真宵さま~! 明日には帰りますから~っ!」
慌てたような白火の声だけが返ってくる。
最後の砦が崩されたような気がして、真宵は顔を覆った。
幼いくせに、なんでこういうところだけは察しが良いんだろう。
一方の冴霧は、迷うことなく屋敷の板間を進んでいる。
真宵がしばらく使っていた部屋を通り過ぎたかと思うと、三つ隣の部屋の前で足を止めた。
もしやここは冴霧の部屋では、とその事実を確認する前に、冴霧は部屋の障子を開け放った。
ぎょっとする間もなく、不意に視界が反転する。
背中にふわりと柔らかい感触を覚えた時には、不敵な笑みを浮かべた冴霧が真宵の上に覆いかぶさっていた。
「なっ……」
なにしてるんですか、という声は、ぴたりと唇に当てられた冴霧の指に遮られた。
ひんやりとした指先に、不覚にもどきりと胸が高鳴る。
目と鼻の先に迫る冴霧の美麗な顔を認識すれば、もう呼吸すら躊躇ってしまうほどに意識が集中した。
「──こうなりゃ俺の勝ち、だろ?」
いつもより数段低い冴霧の声が耳朶を撫でて、真宵はぞくりと身体を震わせた。
悔しいが、力では冴霧に敵わない。
心の根底では抵抗する気もないというのが正直なところなのだけれど、それにしたってこれはいささか、心臓に悪いというか。
「……ったく、んな顔すんな」
しかし先に限界が来たのは、意外にも冴霧の方だったようで。
「別になにもしねえよ。……今日は、な」
「っ、え?」
「だから誘うな、煽るな、見つめるな。わかったら寝ろ」
ぼふっと真宵の隣に倒れこむように横になり、冴霧は足元のかけ布団を引き上げる。