「おーおー元気になったと思えば、いつもの何倍も口が達者になったじゃねえか。あんまり旦那のこと舐めてんと痛い目にあ──」

 真宵はくるりと振り返り、冴霧の胸元を引っ掴んだ。

 咄嗟のことに反応出来ずにいる冴霧を力任せに自分の方へ引き寄せて、その唇に自らの唇を押し付ける。

「んん……っ!」

 唇が離れた瞬間、思いのほか赤面して大きく後方へ飛びずさる冴霧。

「ふふ。あんまり嫁のこと舐めてると痛い目に遭いますよ、旦那様」

 真宵はしれっとした顔で呆然とする白火を抱きなおした。

 生まれてこの方、十九年。

 ツンデレ極まりない冴霧の相手をし続けてきて、さすがの真宵もその手綱の握り方は心得ている。

 振り回されてばかりじゃいられない。

「このやろ……っ!」

 腕で真紅に染まった顔を隠しながら、冴霧がわなわなと震える。

 そんな主人の両端に立って、鬼たちはえらく悟り顔でポンとその肩に手を乗せた。

「潔く諦めるんやな、主はん。どうやったってお嬢には敵わんて」

「強かな花嫁を持った宿命でしょう。大人しく振り回されるまでですよ、主」

「うるっせえ! 散れテメエらっ!」

 同情のこもった慰めの目をする二人を振り払い、冴霧は真宵の腕から白火を取り上げた。

 そのまま蒼爾へ押し付けると、ギリッと鋭い目で真宵を見下ろしてくる。

(それは新婚早々、愛する花嫁に向ける目じゃないです冴霧様!)

 襲い来る嫌な予感に思わず後ずさった真宵だが、容赦なく腕が伸びてきた。

「う、わあっ!」

 逃げる間もなく、ふんだくるように勢いよく肩へと担ぎ上げられた真宵。

 悲鳴じみた声を上げながら、だからなぜここで俵担ぎなのだと突っ込みたくなる。

「俺を旦那に選んだこと後悔させてやる」

「さっき絶対に幸せにするとか言ってませんでしたっけ!?」