「真宵さまああああああああっ!」

 絶叫とも取れそうなほどの大声を上げながら、白火が抱きついてくる。

 もはや体当たりに等しいそれを、真宵は「うぐっ」と唸りながらもなんとか受け止めた。

 夜の帳がおり、灯篭の火が妖しく揺らめく冴霧邸。

 玄関先でぐずぐず鼻を鳴らしながら待っていた神使は、しばらくの間、泣いては怒りまた泣いてを繰り返した。

 何も言わずに出てきてしまったから、本当に心配させたのだろう。

 抱きかかえてよしよしと軽く背中を叩きながらあやしていると、ふと何かに気が付いたように硬直した。

「あ、あれ? ま、よいさま……立って……?」

「ああうん、そうなの。ちょっと冴霧様と結婚したから」

「はあ、結婚──」

 真宵の言葉を呆けた顔で反芻して、一呼吸置いた後、白火は目を点にした。


「え!? け、けっこ……ええええええええええっ!?」


「わ、白火うるさい」

 耳元で叫ばないで、と思わず仰け反ると、後頭部がぽすんと何かに触れる。

 視界に入ったのは久しぶりに本来の姿を取り戻した冴霧だ。

 白火ごと真宵を抱き寄せ、しかし以前とまったく変わらない悪い笑みを浮かべる。

「相変わらず騒がしいガキだな。よお坊主、これからはパパって呼べよ」

「……なんでパパ固定なんです? もしやそんな成りして、実は子ども溺愛しちゃう系お父さんだったり? まあそういうギャップ、わりと好きですけど」

「そんな成りってなんだよ。どっからどう見たって良い父親っぽいだろうが」

 いやいやいや、と白火が必死の形相で割って入ってくる。

「ぼく、真宵さまの子どもじゃないですしっ! そもそも一世一代の大事件を『ちょっと買い物行ってきた』みたいなノリで報告しないでくださいっ! あああああもうこういうところが本当に主様にそっくりなんですよねぇぇ……っ!」

 親子だああああと両手で頭を抱えて悶える白火。

 後ろで鬼二人がうんうんと共感するように深く頷いている。

 これはもしや、呆れられているのだろうか。

「私も、まさかあんな場所で契りを交わすことになるとは思ってなかったよ。意識も朦朧としてたし、なんなら今だってまだ夢の中じゃないかなって感じだし」

「は? まさか覚えてねえとか言わねえよな?」

「言いません、言いませんよ。それくらいふわふわしてたってことです。冴霧様の『神秘の雫』みたいな涙だってしっかりと覚えてますから、安心してください」

 冴霧が途端に渋柿を食べたような顔をした。

「……それは忘れろ」

「忘れません。記憶の家宝にします」